そもそも、「ラジアン」って何ですか?

基礎・基本

なぜ、ぐるっと1周が360°なのか?

私は、ラジアンの授業の冒頭、「なぜぐるっと1周が360°なのか」というテーマで、生徒にグループ討議をさせます。当たり前すぎて、なぜ、1周が360°なのか、生徒は考えたこともないようです。チコちゃんに「ボーと生きてんじゃないよ!」と叱られそうですね。「当たり前を問い直す」ことは、学びの出発点です。結構、盛り上がります。

1分は60秒、60分で1時間、24時間で1日、365日で1年。この中で、きちんとした根拠があるのは、365日で1年だけです。これは、地球が太陽の周りを1周(公転)する間に、地球が自転する回数で、物理的に決まっています。それ以外は、すべて人間が勝手に決めたものです。

12, 24, 60, 360といった数字が、時間や角度などで使われるのは、約数が多くて、分割しやすいからだと考えられています。例えば、鉛筆を1箱買ってきて、それを兄弟で分ける場面を考えて下さい。1箱10本入りなら、2人と5人の場合しか平等に分けることができません。1箱12本入りなら、2人、3人、4人、6人で、平等に分けることができます。分けるのに便利だから、1ダース=12個なのです。

1周が360°と決められたのは、①1年が365日で360に近い ②360は約数が多くて、分割がしやすい という2つの理由からだと考えられます。

数学的に意味のある角度の決め方は?

そもそも、数学では、矛盾がない限り、自由に物事を定義することができます

例えば、ぐるっと1周は100°と決めても、数学的には何も問題はありません。それが定着しなかったのは、使いにくかったからだけです。例えば、正三角形の角の大きさは、1周が360°なら60°とキレイな数字になりますが、1週が100°なら16.666……°という、とても使いにくい数字になります。

このように角度は分割しやすい方が扱いやすいので、360°が定着したと考えられます。つまり、数学的には必然性がありません。そのことを理解して初めて、ラジアンの意義が理解できます。

なぜ新しい角の単位「ラジアン」を導入するのか?

小学校以来すっかりなじんでいる°という単位があるのに、数学Ⅱでなぜ、「ラジアン」という新しい角度の単位を導入するのでしょうか?

それは、°という角の単位は、日常生活や単純な幾何学では分割しやすく使いやすいのですが、数学で本格的に角を扱おうとすると、とても面倒なことになるからです。「シンプルであることは美しい」というのが数学的な感覚であり、シンプルな定義の方が、シンプルな結果につながるのです。

では、数学的にシンプルな角度の単位の定義は何でしょうか。

上のように、半径1の扇形の円弧の長さが1のとき、中心角を1と定義すれば、とてもシンプルですね。このように定義した角度の単位を「ラジアン」と言います。英語のradius(半径)に由来します。

最初のうちは、°の方がシンプルで、ラジアンは難しいと感じますが、°は地球の公転周期や約数の数など、色々な要素が混じっていて、実はとても複雑な単位なのです。

扇形の半径を \(r\)、円弧の長さを \(l\)、中心角を \(\theta\) とすると、単純な比例の関係で、\( l=r\theta\)になりますよね。\(\theta=\displaystyle\frac{l}{r}\)なので、\(r\)や\(l\) に cm などの単位があっても、\(\theta\) の単位は、約分されて消えてしまい、単位のない数字「無次元数」になります。ただ、わかりにくい場合は、\(1\)(ラジアン)などと表記することもあります。

円の中心角は、360°で、半径を1とすると、円周の長さは \(2\pi\) です。だから、360° \(=\theta\)(ラジアン)とすると、\(\theta=\displaystyle\frac{l}{r}=\frac{2\pi}{1}=2\pi\) になります。つまり、\(360\)°\(= 2\pi \)(ラジアン)となります。そこから、重要な°とラジアンの変換公式、

$$180°=\pi (ラジアン)$$

が出てきます。

角度をラジアンで表すと計算結果がシンプルになる!

では、中心角をラジアンで表した場合と°で表した場合で、扇形の円弧の長さと面積がどのようになるか、比較してみましょう。半径を \(r\)、円弧の長さ \(l\)、面積を \(S\) とします。

中心角が \(\theta\)°の場合

中心角が\(360\)°のとき、\(l=2\pi r\)、\(S=\pi r^2\) ですから、中心角が \(\theta\)°の場合は、比例計算で、

  • \(\displaystyle l=2\pi r\times\frac{\theta °}{360°}=\frac{\pi}{180}r\theta\)
  • \(\displaystyle S=\pi r^2\times\frac{\theta °}{360°}=\frac{\pi}{360}r^2\theta\)
中心角が \(\theta\)(ラジアン)の場合

中心角が\(2\pi\)(ラジアン)のとき、\(l=2\pi r\)、\(S=\pi r^2\) ですから、中心角が \(\theta\)(ラジアン)の場合は、比例計算で

  • \(l=\displaystyle2\pi r\times\frac{\theta}{2\pi}=r\theta\)
  • \(S=\displaystyle\pi r^2\times\frac{\theta}{2\pi}=\frac12r^2\theta\)

このように、中心角 \(\theta\) がラジアンの方が、劇的に\(l\) や \(S\) の式がシンプルになります

扇形の面積や弧の長さの公式が教科書にありますが、実際に使う場面は少なく、ラジアンの方が数学的にシンプルで美しいことを示すことに意義があります。その点を、授業では強調しましょう。

このことは、数学Ⅲで、三角関数の微分や積分を学ぶと、より顕著になります。角度が°で表された三角関数を微分したり積分したりすると、目を覆いたくなるほど複雑な式になってしまいます。

ラジアンと°は場合によって使い分ける

ラジアンを導入したからといって、今後°を一切使わないということではありません。日常生活や図形の問題では、°の方が使いやすいので、引き続き°を使います。

しかし、三角関数の計算や微分・積分といった「解析学」の分野では、ラジアンが不可欠なのです。

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